TPC(舌姿勢補正器)でTCH治療 1

 私は顎関節に25年以上興味を持って臨床に携わってきましたが、 1年ほど前から臨床応用している低位舌を改善する器具をご紹介させていただきます。主にTCHや歯軋り、顎関節症の症状緩和にと考案しましたが、低位舌は多くの問題を起こすので、SAS(睡眠時無呼吸症候群)、ドライマウス、嚥下障害などにも応用し始めています。ただ症例はそれほど多くはありません。名称はまだ決まっていませんが、ここでは暫定的にTongue Posture Corrector舌姿勢補正器、以後TPC)と称します。ちなみに愛称は「見えないおしゃぶり」です。いきさつは後日ご説明します。

見えないおしゃぶり 見えないおしゃぶり

 上の写真ではポイントになる突出部をわかりやすくするために透明レジンに赤色をペイントしています。また黒線はより小型の昼間用タイプの概形を示しています。

 さて、TPCは口蓋床部の切歯乳頭付近の位置から下方に向かって突出する突出部が設けられているため、舌尖が突出部に当たりやすくなります。

TPCzu

2…口蓋床部、3…突出部、102…切歯乳頭

 舌の位置が正常な人は、上記左図に示すように、安静時において舌背は口蓋の形に沿った位置にあり、舌尖は切歯乳頭に軽く触れるか、近接している。そして、上下の臼歯はごくわずか離れていて当たっていない。

 一方、歯牙接触癖(TCH)を有する人は、上記中図に示すように、舌の位置が下方に下がるという、いわゆる「低位舌」になっていることが多く、舌背と口蓋との隙間が大きくなり、舌先も切歯乳頭に接触しづらくなっている。このため口蓋と舌背との隙間が大きくなり、この隙間を補正しようと、無意識に下顎を挙上させようとする傾向がある。その結果、上下の臼歯等の歯列が接触することとなる。

 TPCは切歯乳頭の位置から下方に向かって突出する突出部が設けられているため、「低位舌」になっている人でも、TPCをセットすると軽い違和感により舌が動き、上記右図のように無意識に舌尖が突出部の内面斜面に接触しやすくなることにより、舌は本来の位置近くへ誘導され自然に低位舌の状態が改善することが期待できる。その結果、上下顎の臼歯が離れやすくなる。このため、顎の周りの筋肉の緊張が減り、胸鎖乳突筋や僧帽筋などが補佐する活動も減るので、頭頸部や肩が楽になることが期待できる。

 TPCの口蓋床部が上顎の最後臼歯まで沿うものであれば、装着されたTPCが外れにくいという利点を有する。このため、就寝中にも外れにくいことから、歯軋防止や無呼吸症候群の症状緩和(低位舌が矯正されることにより、気道が広がりやすくなり、その結果、無呼吸症候の症状が緩和される)の目的に用いることができる。

 一方、TPCの口蓋床部が上顎の小臼歯付近まで沿うものであれば、小さいので装着感が良好で使用者に違和感を与え難く、長時間の装着でも使用者に苦痛を与え難く、就寝時以外の時間にTCHを防止する目的として用いることができる。また着脱が極めて容易のため、TPCの最大の欠点である発音障害を、舌が器用ならばある程度克服できる。

 なを、開咬など咬合異常のある場合は、使用者の歯列の形状や咬合異常の状況等に応じて、適宜突出高さや全体の形状をカスタマイズして下さい。

 ところで私がネットで調べた限りでは 同じコンセプトのものはなかったですが、もしも既に同じような装置を存在するならば、ぜひお教え下さい。

特徴としては

  1. 咬合面を覆わないので、装着感が良い
  2. 咬合面に邪魔なものがないので、噛もうと思えば普通に噛める
  3. 装着しても外観は変わらない、但し発音しにくいので喋ると気づかれやすい

 でも、こんな簡単な器具で本当に効果あるの?
と疑問に思われるはずですので、ぜひ、ご自身がTCHや歯軋りでお悩みの先生に、実際にTPCを作っていただいて自ら検証いただければと思います。そしてご助言やご批判をいただけると嬉しいです。もちろん患者さんに応用して頂ければなお嬉しいです。

 即重レジンと好奇心さえあれば簡単に検証できますので、ぜひお試し下さい。そして、ご質問がございましたらメールをお送りください。TCHや歯軋りでお困りの患者は多いので、もしもこの装置が有効ならば、多くの患者に使っていただきたいと思っております。

 すべての患者さんがうまくいく訳ではないので、セットしてうまくいかない患者さんにはTCHの説明を再度して理解を深めてから「慣れるまで意識的に突出部に当てるように」とお願いして下さい。

 どうぞ、よろしくお願いします